第16号
(平成19年7月号)
「企業家の一分」

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 海辺に立って一望の海を眺めると、水平線はゆるやかな弧を描く。そのあるかなきかのゆるやかな傾斜弧を海坂(うなさか)と呼ぶ「藤沢周平 小説の周辺」。海坂は古くは古事記や万葉集にも登場する地域で、海神の国とこの国とを隔てるという境界をさすそうです。海とも陸とも区別のつかないほど遠い国、美しい自然、そこに生きる素朴で温かい人々。架空の藩、海坂は藤沢の故郷山形県庄内地方がモデルであるといわれ、多くの読者を魅了して止まない藤沢作品の中心的な舞台のひとつであります。

 文学や映像の世界では、美しく、時に人々の郷愁をそそる、どちらともつかないこの曖昧な境界は、現実の税務の世界においては、たびたび厄介な問題を引き起こします。例えば資本的支出と修繕費との境界。企業が修繕費と判断し一括損金処理していたものが、税務調査時に資本的支出とされることがあります。この場合企業が税務当局の指摘に納得せず、修正に応じない場合には、税務当局は更正処分を行います。その処分に納得がいかないとき、企業は不服申立てを行うことが認められています。
 不服申立ては、「異議申立て」と「審査請求」とから構成されています。異議申立てとは、税務署等が行った国税の更正・決定に対して不服のある者が、その処分の取り消しや変更を求めて、処分を行った税務署等(原処分庁という)に対して不服を申し立てる制度です。これを受け原処分庁は処分の見直しを行い、異議決定をします。異議決定に不服があるときは、国税不服審判所長に対して不服を申立てることができます。これを審査請求といいます。国税不服審判所長は原処分庁の処分を審査し裁決を行います。
 この裁決に不服がある場合には、地方裁判所に訴訟を提起することになります。納税者側の勝訴率は10%程度と低率ではありますが、ここ7、8年の間に倍増しています。裁判所のスタンスの変化や納税者側の体制の改善が勝率上昇の要因のようです。
 
 またまた映画化された藤沢作品。下級武士三村新之丞は、剣の修練をやり直し、失われた大切なもののため、武士の面目を賭けた果し合いに臨みます。武士の時代だからこそ、その行為は許され、またそうせざるを得なかったのかもしれません。価値観の多様化した今日、人の生き方や企業の在り方は様々です。事を構えるもよし、また本来の企業活動に邁進するもよしです。企業にとって大切なものは一様ではありません。新之丞は言います。「勝つことがすべてではない、武士の一分が立てばそれでよい。」
 今日、企業家の一分もまた多様化しています。

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【MMCラクラクチャンネル 第16号】 平成19年 7月号
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コラム 『企業家の一分』